1ビット収録音楽制作の実際例

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ドビュッシー:3つの交響的スケッチ「海」

 

[SACD Hybrid + DVD-ROM]

アーティスト:北村憲昭
品番:NKB-404
ジャンル:クラシック
価格:¥5,000+税
形態:SACD Hybrid,DVD-ROM 2枚組

録音情報:SACD 4.0 Surround,DATA DISC, FLAC / DSF データ収録
発売予定時期:7月18日

SACD+DVD-ROM 2枚組に高品位オーディオを満載
HRレーベル注目の第4弾!

北村憲昭指揮 ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団による
「海」と「ラ・ヴァルス」!

 

音にウルサイと評判の指揮者様から「なにせ良い音で録音して欲しい。」との要望。録音エンジニアはいつでも「良い音」で録音する事を目指している。何を今更って感じだが、これまで最高の機材、最高のスタッフでトライしても自分の聴いてる音をそのままキャプチャ出来ていないと言う。う〜む、これは中々手ごわい指揮者様だ。メイクやデフォルメで美しくする事は可能でも演奏そのものの音を聞こえてる状態でキャプチャする事は至難の業だ。ヘッドフォンでの再生であればダミーヘッドを使用したバイノーラル録音を行えばかなり近い感じで録れるが....なにせ、私はスピーカー派だ。
オーケストラの音を知り尽くした音にウルサイ指揮者様を黙らせたその答えは1ビットレコーダーだった 。


以下、このアルバム収録を題材に1ビット録音と編集に関して解説する。



収録

2013年9月、ショパンコンクールの開催会場としても有名なワルシャワフィルハーモニックホールにて2日間、4セッションのレコーディングを行った。

Recording / Editing : Mu- Murakami
Recording Director : Andrzej Sasin ( CD Accord Music Edition )
Recording Support : Ms.Aleksandra Nago´rko ( CD Accord Music Edition )
Mastering : Tomomi Aibara ( ann's Sound ) http://www.anns-sound.com
SACD Authoring : Hiroshi Aikawa ( aiQualia inc ) http://www.aiqualia.jp
Recording Coordination : Hiromi Kitagawa (NKB)http://www.nkb-ga.com
Deputy Director : Wojciech NowakInspektor
Orkiestry/Perronal Manager : Tadeusz Bonieck
Project Producer: Hiromi Kitagawa (NKB)http://www.nkb-ga.com
Producer: Mu- Murakami http//www.mu-s.com

当日の録音システムは以下

日本から持参した機材は以下

-Mackie1402VLZ3

-3x KORG MR1000 1bit 5.6MHz Recorder

-3x HDD (1TBx2, 2TBx1)

-RME FireFace UCX

-Mac Book Pro /w ProTools HD10

-2x Head phones

-DPA4006 Pair microphone for one point stereo recording.

-2x XLR to TRS , 6x TRS to TRS cable

 

補足説明

-3x KORG MR1000 1bit 5.6MHz Recorder :重量、スペース等を鑑みMR2000SではなくMR1000を選択。
 →フロント側、2台目のMR1000は全くのバックアップ。

-FireFace UCX :バックアップとして、また、マルチトラック収録で前後のマイクの相関も記録。

-マイクの位置、方向などは事前打ち合せ時資料を参照

Pro Tools と1ビットの記録、収録時のLOG

-Pro Toolsはふいに始まってしまったような場合にも対応出来るようほぼ回しっぱなし。

-1ビット機は1つのファイルが4GBをなるべく超えないようにファイルを分けながら収録する。
 (途中、譜面確認などでストップしたりした場合は一旦止める )

-Pro Tools、1ビット機、ともに収録時のLOGをしっかりとる。



編集準備

クラシックは曲が長いせいもあるが、1ティク通しでなにもかもが素晴らしいと言う事は稀。たいがいは誰かが咳をしたり、指揮台を叩いちゃったり、となりの弦に触れちゃったり、あるいはピッチや音色が微妙な個所があったり、場所によってテンポの感じがイマイチだったりなんて事もある。万が一誰かが演奏上のミスなんてしようもんならそのティクはそのままでは確実に没。したがって量の多少はあるものの、編集を行う事はごく普通の事だ。

1)編集にあたっては新規に大容量ハードディスクを準備する。(サンダーボルトを推奨)

2)収録時のLOGを見ながら必要と思われる1ビットファイルのリストを作成する。

3)必要なファイルをまるごとAudioGateでPCMにコンバートする。Pre編集とは言え192KHz/24bitが望ましい。

4)ProTools上、新規セッションを作成。コンバートされたPCMデータを読み込む。

5)ファイルを切り分け、おおむねどのへんを演奏しているか時間軸を合わせる。

6)演奏していない部分や明らかにNGの部分を切り分け、色付けしたりミュート処理したりする。

 



編集

1)ProTools上で納得行くまで編集する。

2)編集が終了したらバウンスする。

3)色々なメディアに焼いて納得行くまで聴き込む。

 

注意

1)バウンスしたものをAudioGateで1ビットにコンバートする。

2)マスターとして納品

・・・ってしちゃう方も多いらしいですが、それではダメです。一度でもデジメーションフィルタを通っちゃったらそのクオリティを超えられません。

編集ログの作成

なので、詳細な編集ログを作成します。

1)ProToolsの左上にあるモードセレクターをSPOT編集モードに切り替えます。(オレンジの)

2)使用しているリージョンを選択すると「スポットダイアログ」が開きます。

左から3つめの反転表示されてるクリップのリージョンネームを見るとあたまにWSD_0013とあるのでここで使っているクリップはWSD_0013、「スポットダイアログ」でスタートが1分49.656秒とある場所のオリジナルタイムスタンプは下から2段目に表示されてるので、このクリップのWSD_0013上のスタートタイムは12分03.423秒だという事がわかります。

次にオリジナルタイムスタンプの右横にある上向きの矢印をクリックすると「スポットダイアログ」内のスタートタイムやシンクポイント、エンドタイムが変わりそのクリップが13分03.898秒まで使われてる事がわかります。(下図)

 

ここで「OK 」を押すとクリップの位置が変わってしまう(下の図を参照。右の方へ移動)ので、スタートとエンドのタイムをエクセルなどに記録して「キャンセル」を押します。

クラリティで編集するには必ずしも全使用クリップのスタートとエンドのタイムをまとめて表にしたものが必須な訳ではありませんがこれがないと編集中におそらく死にます。これを作成しておけばわりと効率的に編集が可能です。



Clarityを使用した1ビットネィティブ編集

ここからClarityの作業です。ProToolsでやったとおりにバッチ処理してくれれば申し分ないのですが、残念ながらそうはいきません。

1)まず編集ログを見て使用するティクをリストアップ、残らずClarityに読み込みます。

2)編集ログのタイムを参考に切り分け、Clarity上の上下のトラックに交互に配置します。(クロスフェィドを行う為です、)

3)慎重にクロスポイントとクロスフェードカーブを決めます。

同じ編集点でもProToolsでやった際に聴こえなかった音まで聴こえちゃうので微調整は必要です。

4)全部編集が終了したらバウンスして書き出します。

5)リアのトラックについても全く同じ作業を行います。

前後のファイルの時間軸上の相関はマルチトラックで収録したProToolsを参照しますが実際のリスニング環境でホールでのマイクの距離差のままだと遅延が大きすぎてしまうので編集中は遅延ゼロで編集し、全編集終了後に試聴しながらリアの遅延時間を決定します。

以上が1ビット、ネィティブ編集のプロセスです。

1セッション4時間、場合によっては2セッションで8時間分の演奏の中から1曲分のベストティクを選ぶのはどのDAWを選択しても簡単ではありません。Clarityはまだまだ試作段階の域を出ず波形表示の拡大縮小や編集機能の洗練はProToolsに比べるとまだまだなので私はまずProToolsで仮編集し、その後Clarityの本編集は懇意にしているマスタリングエンジニア、(株)アンズサウンドの粟飯原友美さんにお願いしています。

編集がすべて終了したらアンズサウンドに持ち込んでDSDマスタリング、その後、iQuoriaへ送ってオーサリングという流れです。SACDの用のダウンコンバート等はiQuoriaでお願いしSACDのプルーフ盤を試聴してOKになればプレス工程へ送り、あとは製品を待つだけです。

オーサリング時に作成してもらった2.8MHz DSDのサラウンドファイルはOPPOでも再生可能でした。5.6MHzのオリジナルマスターファイルはKORG MR2000Sを2台シンクすれば自宅でも再生可能です。これらは将来的に超ハイレゾ作品として配信で提供しようと考えています。

今後、個人でClarityを所有出来る状況になり、機能が洗練され使いやすいものに進化する日を願ってやみません。

 

 

 

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