音響表現

『音響表現の歴史』-録音方式

エジソンのろう管やその後SP盤による蓄音機など機械式音響変換システムから電気音響の時代へ移行、1950年までには放送やレコード業界でテープレコーダーをマスターとする録音方式が確立された。また1958年には実用的なステレオディスクが出現し、現在に至るまでメディアは多々変わったものの基本的な再生環境は変わっていない。

すなわち左右2本のスピーカーによる左右の音と、スピーカー間の虚像(ファントムイメージ)再生である。過去には2本のマイクによるさまざまなステレオマイキングテクニックが試みられた。また、1本のマイク、又は複数のマイクロフォンをパンポットにより自由な場所に定位させる方式も一般的である。

ステレオパンポットの出力は、L=(cosθ)入力とR=(sinθ)入力で与えられる。θはパッンポットの位置角で0度は左側のみ、90度は右側のみを表す。

センター定位の場合、左右に振り切った場合に比較し3db低くなるように設定されており、音響出力は左右の音圧レベルの2乗に比例し、sin二乗θ+cosθ二乗=1という式がすべてのθについて成り立つ。

ステレオパンポットの音響出力は、どこにパンニングしても一定のレベルを保つ事が出来る。

(ジョン・アーグル著ハンドブック・オブ・レコーディング・エンジニアより)

初期のステレオマイキングテクニックとしては2組の双指向性マイクを重ねて近接セットし、正面方向の收音レベルが左右の音に比べて3db低下するパンポットと同様の特性をもつブルムライン方式や、2本のマイクを90度から120度の開き角でセット、センター定位を多く收音しすぎないような形をとるクロスカーディオィド方式が好まれたが、その後、音源に向いた単一指向性マイクと直角にセットされた双指向性マイクを使用、後で広がりを修正出来るMS方式が多く使われるようになった。現在でも特にクラシックの分野ではノイマンのSM69やAMSのマイクによるMS方式の録音が行なわれている。

一方ペアの単一指向性マイク2本を近距離にセットする準同軸ステレオマイキングにもいくつか方式がある。

ORTF方式:ペアの単一指向性マイク2本を間隔17センチ、開き角110度にセット
NOS方式:ペアの単一指向性マイク2本を間隔30センチ、開き角90度にセット
Stereo-180:超単一指向性マイク2本を間隔46センチ、開き角135度にセット

特筆すべきは1950年代にベル研究所のW.Snowらが提唱した大規模なマルチチャンネル收音のスペースステレオマイキングである。この方式は非常に多くのマイクとそれらを結ぶスピーカー群を水平面に並べ、正確な水平音場の再現を行なう。実際にはSpaced-apart Techniqueとして3本のマイクを使用、センターはファントムセンターで再生する。(センターのレベルは左右に比べて下げるのが一般的。)

1999年〜DVDの一般化に伴い、サラウンド音場の収録はさまざまな試行錯誤が行なわれている。W.Snowらのスペースステレオマイキングを現在風サラウンドスペースマイクングにアレンジすると以下のようになるのではないだろうか?〔左側2つの図が概念図、右の図は5.1CHに簡略化)

→ある閉曲面内に音源が存在しない場合、キルヒホッフの積分公式により境界面上の音圧と粒子速度を一致させることにより所望の音場をその閉曲面内に再現することが可能である。閉曲面全ての制御点を制御するのではなく限定した面積のみを制御するという条件を導入することにより莫大な制御量を現実的な条件に削減することができる。

たとえば2.5センチ間隔でマイクにもスピーカーにもなりうるコンデンサ型スピーカーを配置すればかなり正確な音場の再現が可能となる。

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