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音の世界で言う歪みって何 ?.....グーグルで検索すると「電子機器において入出力の非線形性によって生じる相似性の崩れ。指標として全高調波歪(THD)などがある。」ってある。なんのこっちゃか?! ま、ひらたく言うと..読んで字のごとく正しくないって事。元の音(生音)と比較して、伝送系や録音した音が違うものに変化してしまう事で、主にはレベルオーバーに起因する事が多い。(信号が通る部分の電子回路そのものが壊れてしまった場合にも歪む事はある) エレキギターのように意図して歪ませる場合は重要な表現手段だが、意図しない歪みは嬉しくない。 で、どういった場合に「歪み 」が発生するか、わかりやすいように最もシンプルな正弦波で解説する。オシレーターで正弦波を発振させ徐々にレベルを大きくしてみる。下の図、上段(グレーのトラック)がシグナルジェネレーターのボリュームレベル、右側に行くにしたがって直線的に(リニアに)レベルが上がっていく設定。下段はそれを録音したもの。ある一定以上はそこから増加しないで直線になっている。
拡大してみると以下のように徐々に振幅が大きくなり、一番右側の図、上の図のそれ以上上がらなくなってる部分を拡大したものだが、正弦波のあたまが丸くなく平らになっている。これが歪み。
左の3つは音量こそ違うものの基本的に音色は同じ。一番右側の波形は音色も違う。一度でも一番右のような状態になってしまうとその後どんなにレベルを下げても歪んだままだ。
□ マイクで歪む場合 マイクの種類や価格にもよるが、最近のマイクはダイナミックレンジが広くめったなことでは歪まないが、「耳が痛くなるほどの大音量」だと歪む事も多々ある。たとえば、F1マシン等のレーシングカー、マフラー(消音機)なんてものは無いに等しいのでめちゃくちゃ音が大きい。他に音が大きい代表は戦闘機やロケット、大砲など。これらをなるべく近くで良い音で録ろうと思うとレコーダーのヘッドアンプを下げてもすでにマイクで歪んでるからどうしようもない。最も簡単に回避する方法は距離を離す事。音は距離の二乗に反比例して減衰するので少し離しただけでも効果がある。その代わり離せば離す程、直接音の割合が減って間接音が増加する。なるべくオンで録るには最大入力許容音圧が高いマイクでなくてはいけない。ちなみにスタジオで標準的に使用されているノイマンのU87だと最大入力音圧レベルは127dB SPL/117dB(単一指向性)なので至近距離でF1カーの通過音を収録するのは無理。マイクロフォンが耐えられる最大音圧は一般的には140dB SPL程度と言われているが、やはりSPL@1kHzピークで160dBくらいは欲しいがそうなると「大音量高耐圧」をうたったダイナミックマイクがほとんどで使えるマイクは限られる。多少の音質補正は後処理でなんとかする事にしてとにかくマイクで歪まないように注意する事が大事。 レーシングカーの収録に限らず、スタジオでのレコーディングでも、たとえばトランペットやキック、マーシャルのギターアンプフルボリュームとかにノイマンのU87とかだとマイクプリまで行く前に歪んじゃう事もあるので注意が必要だ。 <対処方法>
□ ヘッドアンプで歪む場合 マイクではなんとか歪まずに正しい信号を出力してもマイクが直接つながるヘッドアンプやミキサーの初段で歪む場合も多い。ほとんどのヘッドアンプやミキサーでは入力レベルの監視用にレベルインディケーターや入力レベルメーターが有り、入力レベルが大き過ぎる場合には赤いLEDが点くようになっている。(安価なコンソールでは省略されている事も少なくない。) 最近では宅録が増えたのでミュージシャンがコンソールを扱う事も多いが、初心者にありがちなのが 「初段のゲインが高いままフェーダーでしぼる」ような使い方。「アナログコンソールの場合、限界ギリギリのレベルでソフトクリッピングした方が音が良い」のを音楽的な耳で聴き分けてわざとそうしてる御仁も中にはいるかもしれないが、1歩間違えるとガッツリ歪む。最近では技術の進歩でかなり気にしなくても大丈夫という状況になってきたが、一般的には電子回路の場合(真空管でも)、信号レベルは小さ過ぎても大き過ぎても音は悪くなる。 一般的なコンソールではマイク入力の場合、(機種によってはLINE入力でも)音量を変化させる為に使用する操作肢は各チャンネルごとに3つある。素人さんだとほとんどの場合フェーダー操作だけで音量をコントロールする傾向があるが本当はそれではイケナイ。以下のセッティングを見て欲しい。5つのチャンネル全部に同じ信号を入力、PADやGain、フェーダーの位置はそれぞれ違うが出力は同じレベルになる。(HAのゲイン設定つまみはそれぞれのコンソールごとに異なる)フェーダーの位置がこんなに違うのに出力は同じレベルが同じ訳が無いと思うかもしれないが事実だ。 左から3つめまではまぁ問題無い。左から4つめ、フェーダー位置が-20dbのセッティングだと安いコンソールや低い電圧の電池で動作するコンソールだと歪む。一番右、フェーダー位置が-30dbのセッティングだと高いコンソールでも歪む。入力にピークインディケータが付いていれば真っ赤に点灯してるハズ。PADやHA GainのついていないLINE INPUTとかでも機種によってはフェーダー位置が-30dbのセッティングだと歪む事がある。 <対処方法>
補足:いずれも音量が変わる各操作肢の役割はおおむね以下の通り。 PADは入力レベルが大き過ぎる場合ヘッドアンプに入る前に10dbとか20dbレベルを下げるかヘッドアンプの増幅率を10dbとか20db下げる。ほとんどの機種で「押しボタン」。→音量は下がる。 H.A.Gainはヘッドアンプの増幅率を可変する。→音量を上げる量を決める。 Federは音量の微調整やバランスをとるのに使う。
□ EQで歪む場合 EQ(イコライザー)は各音域ごとに音量を増減して音創りをする。これも機種によって違うがプラスマイナス18dbくらいコントロール出来るので過激なEQは歪みの原因になりやすい。特にパラメトリックEQで似たような帯域をWでブーストしてる場合は要注意! <対処方法>
□ MASTERで歪む場合 各チャンネル毎では最適レベルでもいくつかのチャンネルをミックスすれば当然音量は上がる。(当然の事だがチャンネル数が多ければ多いほどミックスしたレベルは上がる)。そうするとミックスバス上で信号が飽和しマスターフェーダーを下げても歪んだ音色のまま音量だけ下がるなんて事態になる.....。(機種によってはそうならない機種も有る) <対処方法>
□ ....と言う訳で、解説 ミキサー卓を買うと取り扱い説明書がついてきてその中にブロックダイアグラムが書いて有る。)これは信号がどういうふうに流れていくかの概略を記載してあるもので詳細な回路図よりは素人にも理解しやすい。たとえばマイクインプットは-60dbから-30dbの範囲であるとか、LINE INは-34dbから+10dbの範囲だとかGain Trimは16〜60db増幅するとか、HAのすぐ後にFilterがあって、その後にEQがあって、その後にピークインディケータがあるとかも見ればわかるようになっている。また、メーカーによってはレベルダイアグラムも記載されておりどういったレベルの入出力があるかや回路の各ステージでの動作レベルがわかるようになっている。 どこかで上げ過ぎるとそこで歪みが発生し、そのあとのステージでレベルを下げても音量は下がるものの音は歪んだままという事になるので各ステージで許容されたレベルを超えないように注意する事が必要って訳。
右側、レベルダイヤグラムの項でMIC INPUTには随分と幅があるが、これはマイクにより出力が異なる為で、一般にコンデンサマイクは出力が大きくダイナミックマイクは小さい。マイクのカタログや規格表でいう感度(Sensitivity)は音(気圧の変化)が 1パスカル変化したら何ボルトの電圧を出力するかの数値で記載されている。スタジオでは定番のノイマンU87(AI)だとSensitivity:-31dB re 1Volt/Pascal (28mV @ 94dB SPL)、PAで定番のダイナミック・マイクロフォンSHURE SM58だと-54.5dB re 1V/Paって事。当然のことだがどのマイクでも楽器やたてる位置によって出力レベルはすごく変わる。 ちなみにdb(デシベル)という単位は100倍や1000倍といった大きな数字を40dbとか60dbみたいにわかりやすくコンパクトに表示出来る(対数表示)。デシベルは利得(増幅率)を表現するだけでなく、信号の大きさを表す場合にも使う。この場合は、基準となる「0dB」が実際どれくらいの大きさ(何V)であるかを決めてありレコーディングやPA、放送の世界では、0.775Vが基準(0dB)。しかし、「0dB」が1Vを基準としている規格もあり、その場合は「0dBV」と表記する事になっている。 また、デジタルコンソールの出力メーターやデジタルレコーダーの入力メーターに書いて有る0dbはまったく違う意味でヘッドルームを表す。さらに、内部設定によりヘッドルームが16dbだったり18dbだったり20dbだったりする。ヘッドルーム20dbの設定のデジタルコンソールのアナログ出力はメーターを0まで振らすと+24dbの出力なので安物のアナログコンソールのラインインプットにそのままつなぐと歪む場合があるので注意が必要。
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