クラシック音楽の収録(客入れ無し。録音の為の録音)

mu-s HOME / Study!!menu

<海外でのクラシック録音>

海外でとなると持って行く荷物の重量や大きさも重要だ。国立スロバキアフィルハーモニックの録音の際、初めて知ったのだが、日本だと日本全国津々浦々どこにでも必ずある三点吊りマイクは海外では一般的ではないらしい。もちろん吊りマイクはあるにはあるが、主にステージ上に複数の2点吊りや1点吊りマイクがあり、ちょうど良い位置に調整可能なあんな便利な装置はむこうではあまり見た事が無い。日本にあるのもほとんどは高砂製作所謹製。その高砂製作所に吊りマイクの英文WebページのURLを問い合わせたが、なんと無いんだそうだ。へぇ〜〜!!!し、知りませんでした。
で、スロバキアフィルの録音の際はどうしたのってよく聞かれるので以下に解説する。

about microphones

クラシック音楽の収録におけるマイクロフォンテクニックにはいくつもの流派がある。


その中で最も基本とも言える収録方法は一組のステレオペアマイクで全体を録るやり方だ。
かつてN響の常任指揮者に就任し厳しく一切妥協のない練習でN響を一流オーケストラに育てたとされるヴルヘルム・シュヒターは録音方法についても細かく要求したそうで、「音のバランスはオーケストラ自身がつくる」という信念のもと、従来のように複数のマイクロフォンを使用するのではなく、メインマイク一本のみで録音することを求めたそうだ。
日本ではほとんどのホールに三点吊りの可動式マイクがあり、通常「三点吊り」と呼ばれる。海外では「三点吊り」は一般的ではないらしく、黒い釣り糸状のもので左右から吊ったりハイスタンドを使用する事が多い。その場合このマイクは「A/B 」という呼称が一般的。DPA(B&K)の4006が一般的だがショップスやサンケンの事もある。位置は指揮者の後方2m、ステージから4mくらいの高さが一般的。お客さんの入るコンサートでの収録とかだと照明や収録カメラの都合でもっと上方へ設置せざるを得ない事も多々ある。
マイクの幅や開度はエンジニアによってさまざま。僕の場合は幅55センチ、そのまま前向き(平行)で上下角は以下写真の感じでセッティングする事が多い。(4006は無指向性だろうが!というつっこみはナシという事で)

 

 

上記のマイク2本だけで収録する事も多いが、より音に広がり感を持たせたい時やストリングスセクションを分厚く録りたい場合はサブマイク二本を設置する。これもマイクはDPA(B&K)の4006が一般的。(僕は銀色スリットのまま使うが)軸上の中高域をソフトブーストする球形の音圧イコライザーを装着する場合もある。

 

 

上記のサブマイクを立てると相対的に2ndVlやVlaが薄く感じてしまうこともあるので2ndVlやVla用にもサブマイクを使用する。ほとんどのホールではステージ上の二点吊りがちょうど良い場所にある。二点吊り装置が無い場合はシーリングから直接下ろしたり、照明バトンに吊りこんだり、大ブームスタンドを使用したりする。これもマイクはDPA(B&K)の4006が一般的。海外のホールだと黒い釣り糸のようなものでちょうど良い位置にマイクを吊ってある所も多いがその場合はKM84やショップスなど小さめのマイクって事も。

 

客席から見るとこういう位置にマイクがある。Aが三点吊り相当のメインマイク(DPA4006)、Bが前方からのサブマイク(DPA4006)、Cは吊りのサブマイク(ノイマンKM184)。Aのメインマイクを中心にBとCの補助マイクを足してバランスを取る。
 (各マイクやスタンドは分かりやすいように太く加筆表示している。)

1ビット5.8MHzDSDのダイレクトミックスによる一発録りでは大抵の場合、この6本で収録する。稀に「この曲はハープをフューチャーしたい」など要望がある場合は補助マイクを使用する事もある。


ホールの響きを録る為のマイクを何処に立てるべきか迷った時は可搬型の録音機(MR1000とか)にマイクをつないで密閉型のヘッドフォンをかけて聴きながら歩き回ると良い音のポイントが見つかる。あまり後方に立てるよりは前から椅子7つ分くらいの場所が良い結果を出しやすい。僕は人間が立った時の耳の高さ(170センチくらい)で真ん中あたりに角度をつけずまっすぐ前向きに立てるのが好きだが、3mくらいの高さで左右にそれぞれ1本づつ立てる人も多い。サラウンド用で使用する場合はむしろその方が良い。

余談だが写真の指揮者北村先生はここに設置されたマイクのワンポイント録音の音やバランスをとても気に入っていた。彼のリリースしたハイレゾ盤にはこのマイクのみのワンポイントステレオバージョンも同梱されている。

 

僕がこれまでやってきたクラシック(ワルシャワフィルやスロバキアフィル、国内のいくつかのオケ)のDSD収録は、ほとんど上記8本のマイクをダイレクトにミックスして録っている。

 


ルーチンワークで頻繁にクラシックの収録を行ってる方々に愛されてるセッティングとして有名なのは 「Decca Tree 」
メジャーで計って設置するので毎回均一な結果を得られるとか。このセットで素人に録らせてもそこそこ良い結果を得られる。

写真は東欧のクラシック専門放送局の標準セット。ヨーロッパでは極めて一般的なセッティングだそうで、指揮者のすぐ前の両サイド。2m幅でななめ横に向けたDPA4006を下向き45度にセット、指揮者の前1.5m奥にも1本DPA4006を下向き45度に、2.5m外側にWide-L、Wide-Rを設置(Wide-L、Wide-Rは1m程手前にセットする事も多いらしい)。これもDPA4006を下向き45度で、これには高域に指向性を持たせる球体のアダプター(APE-L50)を使用する事もある。DPAのカタログにも3種類の球形アダプタが載ってるが僕は使った事が無いのでなんとも....。ちなみにLCRは銀色グリッドの標準品。

オリジナルのDecca TreeはNeumann社のマイク、M50(ダイアフラムが球体に取り付けられ2kHz以上で指向性を持つ)をL,C,Rに使用だったらしい.。現在M50はデイスコンでDPA4006を使用するのが一般的。

各種セッティングに関する解説はサンケンマイクのWeb内、東京芸術大学音楽学部教授亀川徹氏の「サラウンドテクニック」解説に詳しく乗っている。興味の有る方はそちらを参考にされたい。ただし、Wide-L、Wide-Rは1m程手前にセットする事も多いらしい等の現地情報は載っていない。



Closed Mic Technique

僕の場合、前述した様な少ない数のマイクで収録するのが好きだが、お仕事となると中々そうも言ってられない。特にサントラやゲーム音楽などクラシック音楽のティストは必要だが純粋なクラシックではない場合、クリックを使用して厳密に映像のテンポにあわせたりするような場合、どうしてもオンマイクをたくさん使用する事になる。純然たるクラシックの領域であってもオケによってはオンマイクを要求される事もあるので以下はそう言った際のマイクセッティングの一例だ。

楽器に近接した位置に多数のマイクを立てる録音手法を日本ではオンマイク、海外ではSpot mic、と言う。レコーディングスタジオではごくあたりまえのマイクセット。たとえば 1st バイオリンが8人いればそれぞれのバイオリンにU87またはU67を1本づつ、セクション全体で少しオフに1本とか、フルオケだと60本ものマイクを使う事もあり対応可能なスタジオは限られる。ホールでの収録も同様にケースバイケース。例えばスロバキアフィルハーモニックホールやオペラハウスなどステージが小さめの場合はたくさんのマイクを立てるのは物理的に不可能。そこそこのスコアリングステージでも40本も建てるとそこら中マイクだらけって感じ。また、三点吊り等のオフマイクと併用すると後方の楽器は距離もあるのでクリックをモニターしながらキッチリ同時に演奏しても音が2つ鳴ったと聴こえる程の時間差が出てしまうのでミックスには注意が必要。

以下は2015年9月にSlovakia Radioの Studio-1 で香港映画のサントラを収録した際の実際のマイク配置。
オーケストラは60名、使用したマイクの総数は37本だった。
(僕の場合、常設Decca Treeのセンター3本は未使用、指揮者後方のメインマイクを使ったので実際に使用したのは34本 )

実際のマイクと使用したプリアンプのリストは以下のとおり

 

.  
木管
ハープ
.  
ホルン
フルート/ファゴット
.  
テンパニィ
Tp / Tb
 

 

.  
木管
ハープ
.  
ホルン
フルート/ファゴット
.  
テンパニィ
Tp / Tb
 

ProTools等でマルチトラック録音を行う場合、オケのホームグラウンドのホール等だと大抵の場合、デジタルコンソールが設置されている。1ビット5.8MHzDSDのダイレクトミックスによる一発録りの場合はサンプリング周波数が破格に高いので通常のデジタルコンソールはサンプリング周波数が低すぎて(96Kとかなので)使えない。1ビットで収録する場合は高品位のアナログコンソールを使用する。

メインマイクや補助マイクにもそのホール独特の残響が入っているが、ホールにオーディエンスマイク等が設置されていてもリバーブを使用するのが一般的。僕の場合はお気に入りのIRリバーブを付加する。

O2R96 サラウンドスピーカー標準装備
アポジのマスタークロック
.  
Sub Machine = MR1+外部バッテリー
Subの録音機用マイクはオーディオテクニカ AT9940
.  
日本から持って行ったMACKIEの小型卓
MACはお気に入りのIR-REVとLOGの記入用
.  
デイレクターのエミール氏
   
   

 

ProRools病は世界各地に蔓延しており、POPSでパンチインがあたりまえのようにクラシックでは間違ったりノイズが入ったりした場合はその付近で編集すればよいという風潮が一般的で1曲(一楽章)まるまるクリーンな演奏は少ない。編集が出来ない1ビットが音が秀逸でも普及しないゆえんでもある。とても残念だ。

ちなみにクラシックというカテゴリーは譜面に忠実な事が要求され普通の人が気付かないようなミストーンであっても演奏家にとっては命取りでセクションのTOPを弾いてた人がいきなり後方に降格って事態もあるそうだ。かつて超有名なチェリストのコンダクター様のお仕事をさせていただいた際は誰も気がつかないような箇所で「リハでも別の日の録音でもかまわないがココが直らないならCDは出せない」と言われた事がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mu-s HOME / Study!!menu