□CD-Mastering 最近友人のミュージシャンや後輩のエンジニアから「そのままプレスに出せる状態まで仕上げたいがどうすれば良いか?」って質問が何件も来た。早い話、ちゃんとしたマスタリングスタジオに出せるほどの予算が確保されていないらしい。.... う〜む、やはり音楽業界も不況なのですねぇ...。ちなみに一口にMASTERINGと言っても厳密にはほとんどの場合がPre-Mastering作業、実際のマスタリングでは工場におけるスタンパー作成を指すので別物という方もいる。ま、いずれにしても呼称などたいした事ではないと思うが、こだわりのある方とのお仕事なら「Pre-Mastering」と言っておこう。
<曲頭の処理>
あたまの無音部分が長い場合はカットする。カットした部分を多少大きめの音量やヘッドフォンで聴いても違和感を感じないように処理する。必要ならフェードインをかける。曲によっては歌い手のブレス(息継ぎ)をわざと残す演出もあるが、単なるノイズや消し忘れに聞こえては台無し。めったにないが質の悪いCDプレーヤーだと波形のあたまピッタリでカットされてると再生出来ないで頭が欠けたりノイズを発声したりする事がある。短いフェードインの作業をしてから無音を0.5秒足した後、あたまからケツまでの連続ファイルを作り直す事もある。ファイルの先頭から音が始まるまで何秒でなければいけないという厳密な規定は(たぶん)無いが、おおむね0.3秒〜1秒で作って有れば文句はこないだろう。
<曲終わりの処理>
曲終わりもあまり長い場合はカットする。カットした部分を多少大きめの音量やヘッドフォンで聴いても違和感を感じないように処理する。プチってノイズが聞こえたりしてはダメ。必要ならフェードアウトをかける。ミックスダウンでフェードアウト処理をした曲でもちゃんと確認して違和感を感じないように処理する。
<クロスフェード>
前の曲の演奏中にかぶって次の曲が出てくるような演出の場合、ProTools上で別トラックにそれぞれの曲を配置し、別々にそれぞれフェード処理を行ったり、あるいはどちらかの曲だけにフェード処理を行ったりする。これも多少大きめの音量やヘッドフォンで聴いても違和感を感じないように処理する。(場合によってはわざと違和感を感じさせる演出もある。その場合はプロデューサーの指示にしたがおう)
<音の作り込み>
「この曲はこんな感じが好き」というイメージや、参考にすべき自分の愛聴盤があればそのイメージを元に音の作り込みを行う。具体的にはイコライザーを用いて個別の周波数帯域を足したり削ったりする事が多い。たとえば、もう少しだけ低音の質感が欲しいとかって場合に100Hzを上げてみるとか、もっとシャキっとさせたいって時に10KHzを上げてみるとか、何か全体にモコモコ感じるって時に350Hzを少し削ったりとかそーいう作業。なーんか迫力無いなぁって時やノリに重みが無いなんて時にはコンプレッサーをかけたり、平面的で潤いが無いと感じる場合にはリバーブをかけたりする事もある。これらの作業は感性もさることながら『腕』がともなわないと何かやる毎に悪くなる事もあるので注意。ただ、最近では秀逸なソフトもいくつか発売されておりプリセットの選択だけで簡単に『腕』をカバーする事も可能だ。
<昇圧>
最近のCDはCDが出た当初(1982)と比較すると音量感は倍以上だ。レッチリ(レッドホットチリペパーズ)あたりだとさらにデカイ!!最近みなでかいのは俗に言う『音圧競争』によるものだが『音圧競争には参加しない』と決めていてもあまりにもショボイとクレームが避けられない。それぞれのジャンルの一般的な音量を理解して下品にならない程度の昇圧は必須。
<曲順・曲間の処理>
各曲を並べて聴いた際に心地良いように音量や音質を整えたり曲と曲の間隔を調整する。これも定石は無く作り手の感性がものをいう世界。だいたいは前の曲をふつーに聴いてて曲が終わり少しすると「ココ」で次の曲が始まって欲しいって場所がある。たいがいは前項の『曲終わりの処理』で行うが、意識的にもっとゆったり聴かせたい時はさらに1秒足し、あるスピード感で次々聴かせたい時は1秒少なくみたいな作業。
ならべて聴いて見たら今まで良いと思ってたイントロがやたら小さく感じるなんて時(やその逆)はボリュームカーブのオートメーションを設定する。
<PQコード・CD TEXT 情報入力>
曲の始まり、終わりを指定するコード、曲の権利者を特定する国際コード(ISRCコード)、商品パッケージや事業者を識別するPOS/JANコード等のPQや対応プレーヤー(一部のカーステレオやWMPなど)で再生した際に表示される曲名や演奏者のデータ(CD TEXT)の入力を行う。
ISRCコードやPOS/JANコードは権利者が申請、マスタリングの日までに準備してもらう。個人ベースでも申請可能。Web上からも申請出来る。詳しくはココ。今更ですが、自分の曲では無い場合、JASRACで著作権の申請はすませてあるって事が前提です。
<プレスマスターの作成>
ここまできてやっとプレス用の納品マスターを作成となる。これも厳密に言うとPMCD(プレスマスターCD)とプレス用の納品マスターは違う。厳密にこの規格にそったPMCDを作成する為には ソニーのCDW-900E(当時130万円SCSI仕様)という業務用のCDライターが必要。しかし製造中止からすでに10年以上たっており、今入手可能なものは中古品のみ。正規の保守用の部品も2002年に供給停止されている。で、大昔の中古品でマスターを焼くか、最新のDVD-R互換ドライブで焼くかどちらが正解なのだろう? 僕個人の意見としてはどちらも不正解で、極力新しい音楽用のCD-R/RWライターがいーんじゃないかと思う。ちなみに新しい音楽用のCD-R/RWライターって言っても現在は一機種しか無い。Plextor社の2006年に出たPlexWriter Premium2。ATAPIの内蔵型だがUSB2-ATAPI変換で外付けで使用可能だ。本体はMACでも大丈夫だがソフトはWindowsだけで動作ってのが悲しい。まぁ最近のマックはWindowsも動くので..。僕はコレで焼いている。
将来的にはプレスの業者が対応していて自分の環境でDDPファイルを作成出来るなら「DDPファイル納品」がベストだろう。
<チェック・CDR試聴>
チェックは2つの側面がある。ひとつはエラーチェッカーにより納品マスターのデジタル的な品質がマスターとして使用可能なものかどうかのチェックだ。日本レコード協会のCDRマスター運用基準では納品マスターはエラーチェックを行い、ランダムエラー(C1)は1%以内/秒、訂正不能エラー(C2)はゼロを確認してその結果のテクニカルデータシートを添付するよう規定されている。PlexWriter Premium2だとエラーも少なく、さらに、付属ソフトQ-Checkにより、C1/C2エラーテストが可能。過去にはエラーチェックをかけずにそのまま提出して工場にてエラーチェックでひっかかり別のWriterで焼き直して再度納品っていう冷や冷や事件もあった。
で、もうひとつ重要なのは再生テストだ。全体の音質や音量、曲間など、音楽的に満足いくCDとして完成し、フツーのCDプレーヤーでちゃんと再生出来、WMPでかければ表示される曲目やアーティスト名も間違いがあってはならないのは言うまでも無い。
<チェック・CDR試聴>
納品にあたってはプレスの業者によって必要書類が異なるがおおむね以下。(詳細は要問い合わせ)
・CDR(Master)
・CDR(Sub-Master)
・PQシート(バナーソフトからプリント可)
・エラーチェックシート
・編成表(JASRACに申請済みの楽曲データ等が記載されたもの)
・現金(音楽著作権使用料=定価の6%xプレス枚数)<ジャケット関係>
実はも一つ重要なのがジャケット関係、こだわりのデザインは自分でって場合はイラストレーターってソフトで作り込んでデータ納入すると完璧。しかも安くあがる。盤面の色数やジャケットのページ数で追加の料金が変わるが僕のよくお願いするエクスプロージョンワークスだと以下。(ちなみに基本料金は1000枚国内プレスで15万前後)
・ジャケットについて、デザインを外部で行う場合はプラス\50,000
・写真家にもこだわりたい場合はプラス\50,000〜(写真家のグレードによる)
・ページ数を6Pに増やした場合はプラス\2,000
・8Pに増やした場合はプラス\11,000-