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Hall Recording

 

三点吊りメインマイク

オーケストラの録音において三点吊りマイクは非常に重要でまさにメインマイク。三点吊りマイクだけで録音された楽曲も相当数ある。だが、三点吊りマイクに関する情報はわりと少なくて検索しても中々出てこない。....という訳で検索すると上位に出てくる私のページを頼りに質問メールが来る。どうせならお仕事依頼のメールなら嬉しいのだが....。 
ま、せっかくなので門下のエンジニア向けだけじゃなく自分の備忘録もかねて諸々記録しておこう。

 

まずはマイクロフォンの歴史。

クラシック音楽の歴史は300年以上だが、歴史上初めて録音&再生をしたのが1877年のエジソンの蝋管、140年前が録音の始まり、朝顔のようなホーンが拾った音の振動を蝋管(最初は錫管)に溝として記録するので振動板はあるものの直接機械的に振動を記録するしくみでマイクなんていう概念はまだ無い。ちなみに世界初のガソリン車は1887年、ライト兄弟が初飛行したのは1903年だから録音の歴史は自動車や飛行機より長い。
ベル研究所で初めて電気録音システムが完成したのが1924年、出来たばかりの電話機からダイヤルと受話器を外して送話器を独立させたWE323W型カーボンマイクが使われたといわれている。NHKの博物館に放送開始の頃に使用された初期のWE373型がある。

昔の電話機
WE323W型カーボンマイク
1925年製 WE373型

 

ステレオレコードが実用化されたのが1957年、すでに現代のマイクの原型になるようなマイクは実用化されていた。現在でも立派に通用するマイクだとRCA 77DX型 は1949年製造、ノイマン M-49型 コンデンサー マイクロフォンは1954年製造、PAの定番SM58は1958年製造と言う俗説があるが、実は1966年に誕生した。

RCA 77DX
Neumann M 49
Shure SM58

 

三点吊り装置

オーケストラの録音だけでなく小編成のリサイタルを含めホールにおける録音では三点吊り装置により天井からステレオペアのマイクを吊り下げて使用するのが一般的。日本のホールの三点吊り装置普及率はおそらく世界一。日本全国津々浦々のホールに設置されている。さらに客席後方に前後と上下だけが調節可能な2点吊りや1点吊り装置があるホールもある。

海外では黒の細曳きやワイアーで何本ものマイクを手吊りするのが一般的。有名なシカゴシンフォニーホールやワルシャワフィルハーモニックホール、スロバキアフィルハーモニックホール、ロシアやフランスのホールで録音した事もあるが日本のような三点吊り装置はどこにも無かった。そのかわり「これでもか」ってくらい沢山のマイクが目立たないように吊ってあっるのには圧倒された。

客を入れない録音だけの為の演奏であれば3m超の大スタンドを立てる事も多々あるが三点吊り装置があれば客が入っていても前後左右上下も含め好きな位置にマイクセットが可能。

正確な資料は手元に無いが記憶では1970年代から三点吊り装置が普及したと思う。ダントツに多いのが高砂製作所の製品、次が不二音響(HYFAX )、三精エンジニアリング、手動の製品では松本製作所なんてのもあった。

ヤマハサウンドテックが三精や不二音響を買っちゃったし高砂製作所は2016年に音響関連分野から撤退しちゃったのでこれから新設する場合はヤマハが唯一の選択肢。三点吊り装置は耐用年数がおよそ15年なので今後は全国のホールがヤマハ製(HYFAXブランド)の三点吊りになるのかな?!

 

三点吊り装置用ステレオマイク


セットするステレオペアのマイクは多様で時代により流行がある。

創世記のステレオ収録はブルムライン方式、クロスカーディオィド方式が好まれたが1970年代に入ると主流はMSステレオ方式となり、ノイマンのSM69やAMSのマイクが好まれた。その頃から日本中の多くのホールに三点吊りマイク装置が装備されるようになった(当時は手動)。ノイマンやAMSのマイクは非常に高価だった為、地方の公共ホールの多くは三研のCMS-2を採用、これは定番となり現在でも生産されている。ちなみにSM69はかなり硬質でブライトな音色、それと比べればSANKEN CMS-2 も悪く無い。僕はナチュラルな音色のAMS派だったが少数派。今やWebでどう検索しても出てこない。謎だ!!!!

Neumann SM69
SANKEN CMS-2

 

80年代以降は様々なステレオ収録テクニックが登場しMSステレオ方式はもはや主流ではなくなった。SCHOEPSのCMC641のAB方式やORTF仕様、B&K4006(現在のDPA4006A)のAB方式、あるいはAB Wide方式、SCHOEPSの球形マイクKFM-6やノイマンのダミーヘッド、フィリップス方式やデッカツリー、深田ツリーなど多様な収録方法があり多様化が顕著だが2000年以降は4006のAB方式がメジャーとなった。僕も4006Aを5本所有しているがKFM6も好き。

SCHOEPSのCMC6  ORTF
DPA 4006 Wide AB
SCHOEPSのKFM6

 

三点吊り装置の構造 (例)高砂製作所謹製

ちなみに高砂製作所は1950 年の創業、価格は断突に高いもののプロフェッショナルユースのスタンドや三点吊り装置などホール設備、TV、スタジオ製品はチープな汎用品とは一線を画す品質を誇ったが2016年に突然、全製品の生産中止を発表した。

 

三点吊り装置の操作

三点吊り装置は扱いを誤るとケ-ブルがジャミングし大変な事になる。また、加重は約20Kgまでなので回線があるからと言って重いデッカツリー等を吊りたい場合は安全上十分な注意が必要。
かつてはホールでは三点吊りの操作は小屋付きの音響さんにお願いして「もうちょっと上に」とか「1mステージよりに」とかお願いして操作してもらうのが一般的だったが、最近ではコントローラーを「ハイ」って手渡される事もよくある。同じ高砂製でも無線LAN仕様のタブレット型も増えてきたがほとんどは以下のコントローラー。使い方を覚えておいて損は無い。

1)専用ケーブルをリモコンとつなぐ。

2)右下にカバー付きの電源スイッチがあるのでカバーを跳ね上げつつ電源を入れる。

3)右側にある「総合」の下向き矢印を押すとケーブルが3本とも下りて来る。(通常は床に着く前に自動停止)

4)センターの分銅に左右のケーブルの先にあるクランプを接続する。

下まで下げてセッティング
Front Vew
KFM6

5)SM69やCMS-2、KFM6などの場合センターの分銅にマイクホルダーを直接接続する。ネジの規格はBTS。

6)ステレオバーを使用する場合はBTS規格、またはAKGネジとの変換を介してしっかり接続する。

7)「総合」の上向きの矢印を押して適当な位置までアップする。

8)マイクをステージ寄りにセットするには「中央」の下向き矢印を押す。客席寄りにするには上向き矢印を押す。

プリセットを消去して良いかどうかはホールの音響さんに確認する事。P3なら使ってもいいよって言われる事が多い。逆にP1やP2はそのホールでよく使われる位置なのでわりと良いポジション。ベストポジションではないかもしれないが照明さんから文句の来る可能性は少ない。仮にベストポジションであったとしてもマイクの種類、上下角、左右の開き、オケの編成でもの凄く変化するのが設置場所の目安程度。下手、中央,上手のカウンターの数字も単なる目安。高さ表示ではない。

・P-3のプリセットを呼び出すには P-3  読出  セット

・P-3のプリセットに書き込むには テンキー P-3  書込を2度押し

プリセットを使用しない(使用出来ない)場合、下手、中央,上手の表示されてる数字を紙に書いて記録する。

数字をテンキーで変更する場合はテンキーの右端、上の2つの矢印キーを押すと表示窓の左下に光ってる緑のLEDが下手、中央,上手のいずれかに移動するのでテンキーで数字を打ち込み「セット」キーを押すと新しい数字の所にマイクが移動する。

 

三点吊りの位置

多くのホールで「三点吊りで録音してCDRに焼きます」ってサービスがある。だいたい5000円〜1万円くらい。ま、それでCD並みの最高の音だったなんて巧い話がそうそうある訳は無いのでそれはほぼほぼ記録用録音です!!(マジだったら僕のお仕事も無くなっちゃうし.....)同じマイク、同じ三点吊り装置を使用しても録るエンジニアによって音はすごく変わる。

で、ここからが本題だが録音の際のベストポジションはいろんなエンジニアのいろんな流儀があって一概には言えない。 僕の流儀だと、標準的な響きのホールの場合、指揮者の後方3.5m、高さはステージの床から3.5mで4006のAB Settingで(マイク間隔20センチで平行)オーケストラの中央付近を狙う。4006は無指向性だが軸上と軸をはずれた狙いでは随分音が変わるので注意が必要。

 

残響の大きいホールの場合はもっと近めにセットする。ただし、この位置だとお客さんの入ったコンサートだとほぼ間違いなく舞台監督さんや照明セクションから文句が来る。

公開録音やお客さんを入れない「録音の為の演奏」とかじゃない普通のコンサートだとお金を払ってコンサートを聴きに来て下さるお客様の目障りになってしまうので照明セクションや舞台監督から「もっと上の方に飛ばしてくれ」 というオーダーが入るという訳。たとえば、2階席からオケを見た時に三点吊りマイクでオケの団員が見えないとか、マイクが目立ちすぎてるとか、ピンスポットなど照明で影が出来てしまうとか、ホリゾントに映像を映すので邪魔だとかの理由。そういった場合、素直に邪魔にならない場所まで上げる。

三点吊りを高く上げた時はなるべくステージよりにセットする事と狙いはオケの中央付近を意識して上下角を調整する。4006の場合はアコースティックイコライザL40BまたはL50B を装着する。

極端に高い位置しか無理な場合はマイクを4011に変更しマイク間隔を少し広く(60センチくらい)とる。4011は指向性マイクなので4006と比較すると残響は少なめで楽音をクリアに収録する事が可能だが観客のリアクションや拍手は相対的に少なくなる。

最近では異なるキャラ、4006ペアと4011ペアの4本吊りをするエンジニアも増えてきた。4本吊るとなるとケーブルは細くてしなやかで音が良いケーブルが必須。「PCOCC 」(Pure Crystal Ohno Continuous Casting Processの略称で古河電気の登録商標。単結晶状高純度無酸素銅やOFC(Oxygen Free Copperの略で無酸素銅の6Nとか7Nとかがお薦め。僕はオヤイデ謹製の細いPCOCC。

 

 

 

ステレオマイキングテクニック

マイクのセッティング方法も定位感を重視したり空間の響きを重視したり、求める音により多様なテクニックが共存する。XYやORYF、NOS方式であれば素人が録っても失敗は少ない。一方、商業的な収録をプロが行う場合はA B 方式が一般的。

音サンプルを含めた解説は「ステレオマイキングテクニック」の項を参照

 

 

 

 


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