□ DVDを作る かつてはCDを作るだけでも敷居が高く、生ディスクは1枚1万円、焼くためのソフトが5万円、CD-Writerも5万円、個人がCDを作るにも大変なお金と技術が必要だったが、今では誰でも自分のCDを簡単に作れるようになり、コピーが社会問題になる程だ。最近ではパソコン購入時に付いてくる無料のソフトで映像編集もDVD作成も出来るようになった。また、家電でも、テレビ放送やVHSテープをディスクに記録したりそのままDVD作成も可能だ。将来はブルーレィディスクが普及し高音質、高画像、サラウンドで長時間のDVDも家庭で作れるかもしれない。
とは言え、今、5.1CHサラウンド音声付きの商品用DVDを作るとなるとそれなりの準備が必要だ。
2005年8月5日に広島で行われた「 8.5慰霊の夕べコンサート」を例にとり、実際にどのよな過程でDVDが作成されるのかを以下に解説する。
□DVD作成プロセス概要
・構想:あらかじめ作品全体の構成を決めておく
・収録&編集:Audio、およびVideo素材を作成。
・エンコード:Audio、Video、静止画素材をDVD互換フォーマットにエンコード。
・オーサリング:ディスクメニューやリンク構造を作成
・マルチプレクシング:AudioやVideo、静止画等、異なる種類のファイルを結合してディスク用の最終ファイルを作る。□収録・事前準備
3時間にもおよぶこのコンサートのDVDを制作する為にはテープチェンジ時に映像がとぎれるのを回避するため、同じカメラ出力を分岐して2台のVTRに収録、あとで編集したり、複数のカメラのテープ交換時期をずらしたり、静止画をインサートしたりという作業を想定したり、機材の総量、スタッフの数、予算等を勘案して機材概要を決める。
→当初は大型の業務用HDカメラ+VTRを想定したが、コンサートの性格上、収録自体、あまり目立たない方が良いという判断で小型のHDカム3台を準備、テープ交換時期をずらしたり、静止画をインサートする事とした。また、音声も2CHでよいのか、5.1CHサラウンドでリリースするのか、CDの同時発売はあるのか等をクライアントに確認する。
→CD用は一発録り、マスターは当日渡し、DVD用は2CHと5.1CHサラウンドの両方、アーカイブ用は1bitで収録と決まった。□収録時フロアプラン
会場は京都国際会議場フェニックスホール、事前に会場図を送ってもらい、カメラブースや中継室の有無、広さ、三点吊りの有無、一般的な収録パターンなどを聞いておく。
→カメラブースは特に設定されておらず2階席中央に設置する事が多いとの事だったが、今回は小泉首相ご一行様が来るため2階席は無理との事、1階席プロジェクターの隣に2台を並べて設置する事とした。中継室は若干狭いが、よく中継で使用すると言う舞台袖や楽屋は今回は出演者が凄く多いので無理との事で中継室にて録音する事とした。三点吊り。一点吊りともに使用可だがこれも2階席との兼ね合いでかなり高めの場所で使用する事になりそうとの事。録音のためのコンサートではないためやむをえない。補助マイクの位置で音質を補正する事として以下の図を書き関係者全員と会場担当者に送付した。
□録音プラン
CD用は一発録りなので44.1KHz24bit、2Gbのコンパクトフラッシュで連続2時間収録可能なローランドのR1をマスターにする事とした。途中20分の休憩中にマックにデータ転送して1部の編集を行い、2部は終了後に「Peak」で編集して当日CDマスターを渡す(「Peak」はマック本体だけで編集出来るのでこういった時はすごく便利)。DVD用は2CHと5.1CHサラウンドの両方、アーカイブ用は1bitなので、1bit機と96KHz24bitのプロツールズ両方で収録とも思ったが、結局今回8CHで収録したものを2CHと5.1CHサラウンドの両方ともミックスダウンするので1bit録音機2台で収録する事とした。ビデオにはCD用は一発録りミキシングのものをそのまま送り音声トラックに収録する。うまくすれば2CH用はこの音をそのまま使えるかも知れない。
□映像編集
映像編集はiMovie HDを使用する。どの編集ソフトを使用するにせよハードディスクの空き容量は最低でもプロジェクトサイズの2倍必要。FinalCut Pro等を使用して高度な編集を行う場合はハードディスクは3台準備し、1台をソースオーディオ用、もう1台をソースビデオ用、最後の1台を完成したファイル用に使う。(ファイヤーワいヤーディスクでOK)
「 8.5慰霊の夕べコンサート」の演奏曲目は2曲だが、1曲はマタイ受難曲なので、全体で3時間近いコンサートであり、演奏部分以外をカットしてもサラウンドの音声を含めるとディスク1枚に収めるのは容量的に無理。HDVで収録したがDVモードでディスク2枚に収まるよう編集する。「DVD作成プロセス概要」中「構想」のページにも書いたが、あらかじめ全体の流れ(構成)を決めておき、必要な場所に必要な「タイトル」をインポーズしたり、画面のディゾルブ(フェードインやフェードアウト)などの処理を行う。テープチェンジ等で映像がとぎれる場合、ちょうどよいタイミングを探して2台目のカメラ映像と差し替える。2台目のカメラ映像もダメ奈場合はなにがしかの静止画と差し替える。必要なら最後にエンドロール(演奏者やスタッフのクレジット)も入れる。
この時点まで音声はビデオカメラの音声トラックに収録されたもの(ステレオ)を使用する。もし、このステレオ音声だけのDVDでかまわなければすぐにDVDの制作に移れる。
iMOVIEの画面右下に有る(↓部分)「iDVDのアイコン」をたたいて「チャプターマーカーを追加してiDVDに書き出す」画面から「iDVDを起動」を選ぶか、ファイルメニューから「共有」を選び、その中のメニューから「iDVDに送信」を選ぶとiDVDが起動する。「カスタマイズ」アイコンでメニュー画面を選択し、コレも右下に有るオレンジと黒の放射線管理区域みたいな円盤、「作成」アイコンをクリックして生ディスクを挿入すればそのままDVDに焼ける。あっけないほど簡単だ。
カメラ本体に記録されている音声は必ずしもクオリティが良いとは言いがたく、別にちゃんと収録した2CH音声や新たにミックスした2CHまたは5.1CHの音声を同期させてはめ込む事が多い。こういった作業を日本では「MA」または「ポストプロダクション」という。(アメリカではオーディオスィートニング)
□MIXING
DVD用は2CHと5.1CHサラウンドの両方のミックスを作成するが、今回、5.1CHサラウンド用は実際には4CHしか使用しない。センタースピーカーは映画用のダイアローグがメインのチャンネルであり、音楽用に使用するかしないかはプロデューサーやクライアントから強い要望が無ければ担当するミキシングエンジニアの裁量である。私の場合、音楽用にはセンターCHは使用しない事がほとんどで今回も使用しない。SWチャンネルもクラシックの場合は使用しない事が多い。マルチマイクでパイプオルガンやグランカッサ等、重低音を含む場合はこの限りではないが、今回は三点吊り+補助マイク+AudienceなのでSWは使用しない。
MIXINGはSSL-XLコンソールで行い、各マイクのCHをサラウンドパンで定位を調整しながらバランスをとり、4CHに落とす。ProToolsと1bitレコーダーに同時に収録する。1bitレコーダーで録音したものは現時点ではそのままDVDには焼けないので当面は映像無しのWSD-4chあるいはDSD用とする。こういったクラシック音楽の場合、2CH版は5.1CHサラウンドミックスの前方2CHをそのまま流用可能な事が多い。(後方マイクも加えて別ミックスを作成する場合もあるが、私の場合前方2CHをそのまま流用
DVD用マスターにはProTools HDを使用し、24bit96KHzで収録し、編集後の映像をインポートして映像とあたまを合わせた後、AIFFで保存する。ハイクオリティな音声が不要な場合や編集機、エンコーダーが対応していないなどの場合は16bit48KHz(ビデオ用の標準)で保存する。
Do;byやDTSでエンコードするために、各トラックの拡張子に当たる部分に(L)(C)(R)(Ls)(Rs)(Lf)とつけて保存する事。(プロツールズ上のサラウンドトラックに記録する場合は自動的につく)また、たとえ使用しなくてもエンコードにあたり、センタートラック(C)やサブウーファーのトラック(Lf)が必要な場合も有る。
□エンコード&オーサリング
最終的にどの程度の画質や音質でで収録するか、盤の容量、1層、2層の別を考慮する必要が有る。映像の場合は同じタイトルを何度か圧縮してみないと圧縮後の容量はわからない。3時間分の映像のエンコードに実時間かかる訳ではないが高速のG5でも結構時間はかかる。
音の場合、2ch 16bit48KのPCMの場合は1分10M強、24bit 48KのDTSの場合は1分11M(96Kにしても圧縮後のデータ容量はほぼ同じ。転送レートは1.5Bpsのみ)、DOLBYの場合はDTSの約4分の1の容量が必要。音声の圧縮は固定レートなので計算によって求められる。
DTSのデータ転送レート(スピード)は2つ。SPDIF規格で転送できる最大のレートが1.5Mbps(2Ch PCMと同じ)とハーフレートの754Kbpsの2種類。 DVD-Video規格上では映像と音声の両方の転送レートを足して8M、Dolby Digital 5.1で448KBpsだが、どのみちプレーヤーはどれか1種類しか再生しないので音声帯域は最大1.5Mbpsとっておけば大丈夫なので、まず映像を圧縮してみて容量を確認し、全体の盤の容量から見て音声ストリームや字幕等をどのくらい入れれるのか計算する。(場合によっては画質を落として再エンコードしてみる事もある)
DTSも24bit 48KであればProToolsのPlugin(SmartCode Pro)を使用して5.1CHサラウンドの圧縮ファイルを作成する事が可能。(ただし旧バージョンのProTools Ver.5.4用は販売されているが、OS-XベースのProTools Ver.6以降は未対応。DTSジャパンへエンコードに持ち込むにはWAV、AIFFのモノファイルが6個、4CHの場合でもファイルは5.1Ch分必要。2時間半までのエンコード費用10万円+消費税(DTSジャパンにて可能)追加は30分ごとに2万円+消費税の追加料金が必要(+DTSジャパンに商品版を2枚贈呈する必要あり)。→収録は96K24Bitなのでオーサリングルームが対応していない場合DTSに頼む事になる。3時間分のエンコード=約13万ですね。
5.1CHサラウンドはDolbyもDTSもiDVDで焼く事は出来ないがどーしても自分でサラウンドのDVDを焼きたい場合はDVD Studio Pro4。指示にしたがってAudioやVideo、静止画等、異なる種類のファイル(素材)を入れてやれば、これらを結合してディスク用の最終ファイルを作り、DVD-Rに焼く事が出来る。Dolby5.1なら付属ソフト(A-PACK)でエンコード可。DTSはエンコード済みのものを読み込めば焼けるがエンコーダーは付属しない。
と言う訳で今の所高音質のサラウンドDVDを自分で作成するのはまだ敷居が高い。プロ用のオーサリングスタジオを利用するのが一般的だろう。ただしプロ用のスタジオでもローグレードのオーサリングシステムを使用している場合はDTSに対応していない事が有り、事前に確認する事。(Scenarist ProfessionalならOK)
ほとんどのオーサリングスタジオでは音声はデジタルファイルになっていればAIFFでもWAVでもSD II でも受け付けてもらえる。(映像との同期は素材を渡す前にあらかじめとっておく)
尚、あまり知られていないが国内販売用タイトルの圧倒的シェアを誇るDVDオーサリングソフトScenaristはあの空調で有名なダイキン工業の製品だ。サイトにはオーサリングシステムの詳しい説明も有る。同じProとついてもDVD Studio Proとはケタ違いに高価なだけあってScenarist ProfessionalはちゃんとDTSサラウンドに対応している。
□ DVD-Audio/Video DiskDVDをデジタルビデオディスクと思ってる人が随分いるが、実はデジタルバーサタイルディスク(デジタルの万能ディスク)が正解。ここまで書いてきたのはおおむねDVD-Video Diskだ。で、見た目同じでちょっと違う音重視のDVDがある。
DVD-Audio/Video Disk:DVD-Audio対応プレーヤーでかけると24bit 48K(ソースによっては24bit 96K)の非可逆圧縮(MLP)の5.1CHサラウンド音声が再生可能。DVD-Audioに対応していない普通のDVDプレーヤーでかけるとDTSの24bit 48K(ソースによっては24bit 96K)の可逆圧縮オーディオ、または24bit 48K(ソースによっては24bit 96K)の非圧縮オーディオを再生可能。
DVD-Audioは音声がメインで映像がスレーブ(映像はメニュー&静止画しか使用できない)見かけ上DVD-AudioでもDVD-Videoとハイブリッドにする事が可能。
DVD-Video Disk:PCMまたはDolbyDigitalが必須。オプションとしてDTSの24bit 48K(ソースによっては24bit 96K)の可逆圧縮オーディオ、MPEG、SDDSが可能。
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